Goldwin Play Earth Fund PORTFOLIO INTRODUCTION
Vol.8Resortecs
「作って、使って、捨てる」を終わらせる。
ーまずは、自己紹介からお願いします。
セドリック:「Resortecs」のCEO兼共同創業者のセドリック・ヴァンホーケです。オランダにあるデルフト工科大学で工業デザイン工学を、イタリアのドムス・アカデミーでブランドマネジメントを、そしてベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学んできました。
ー「Resortecs」を立ち上げたきっかけはなんだったのでしょうか?
セドリック:アントワープに在籍していた頃に、ある決定的な矛盾に気づいたんです。それが「衣類のデザイン」と「製品寿命を終えた後のリサイクル」の間に、深い断絶があるということ。ファッション製品は構造が複雑で、多様な素材が混在して結合されているため、分解してリサイクルすることが極めて難しい。その現実に直面したことが、会社を立ち上げたきっかけです。
ー「Resortecs」とは、具体的になにをしている会社なのでしょうか?
セドリック:再利用・修理・再製造・リサイクルを効率よく実現する「アクティブ分解技術」を開発しています。
ーどういったミッションを掲げていますか?
セドリック:ファッション業界の「作って、使って、捨てる」という一方通行のモデルから、素材の価値を維持し続ける循環型モデルへと転換させること。しかも、コストやデザインの自由度、耐久性、機能性を損なうことなく実現することを目指しています。
ー社名にも思いが込められていると伺いました。
セドリック:はい。REcycling(リサイクル)、SORting(選別)、TEChnologieS(テクノロジー)の頭文字を取り、社名を決めました。私たちの哲学は「Design to evolve. Build to disassemble.(進化のためのデザイン。分解のための構築。)」。製品の未来を見据えて設計することで、時を経たときに、より多くの可能性が生まれると考えています。
熱で溶ける糸が、衣類の常識を変えていく。
「Resortecs」独自の技術とは、どういったものなのでしょう?
セドリック:特定の温度で溶ける縫製糸「Smart Stitch™」の開発です。その糸は、生産中も、もちろん日常の使用においても、通常の糸と変わらない強度と耐久性を発揮します。
ー縫製糸が溶けることで、どんなメリットがあるのでしょうか?
セドリック:糸が溶解すると、衣類が主要なパーツへと分離されます。これにより、修理や再製造、ブランドラベルの取り外し、リサイクルのための分解が迅速かつクリーンに行えるようになるんです。
ーこれまで多くの工程と人手が必要だったものが、一瞬で行えるというわけですね。
セドリック:そうなんです。さらに、リサイクル純度の向上、ファスナーやボタンといった高価なパーツの傷めない回収、売れ残り在庫の再活用もできます。なにより、それらの製品を「廃棄物」ではなく「新たな資源」として捉え直すことができるんです。
ー糸である「Smart Stitch™」もですか、糸を溶かして部品を選別するシステムも開発されていると伺いました。
セドリック:Smart Disassembly™」という、世界初の熱分解・選別システムを開発しました。「Smart Stitch™」で縫製された衣類をその機械に投入すると、「Smart Stitch™」が溶け、自動的に主要な構成パーツへと分離されるんです。素材の回収率が大幅に向上し、リサイクルのコストと複雑さも大きく軽減されました。
ー開発にあたり、最も印象的だった瞬間を教えていただけますか?
セドリック:初めてのデモンストレーションに成功した瞬間は、なによりうれしかったですね。そして、一着の服が熱によって見事に分解されていくのを目の当たりにしたとき、このコンセプトが今後の繊維業界に革命を起こすポテンシャルを秘めていると確信しました。
問題は「繊維」ではなく「組み立て方」にあり。
ーリサイクルの根本的な問題はどこにあると考えていますか?
セドリック:最大の障害は、繊維そのものではありません。「製品の組み立て方」にあります。多くの衣類は、製品寿命の終わりをまったく考慮せずに作られており、結果、世界中で膨大な廃棄物と貴重な素材の損失が生じているんです。
ー「Resortecs」はその課題に、どうアプローチしているのでしょうか?
セドリック:製品を簡単に分解できるようにすることで、修理や再利用を促したいと考えています。そうなれば素材の回収効率が上がり、廃棄物が減るだけでなく、循環型のビジネスモデルが生まれ、環境・経済の両面に利益をもたらすはずですから。
ー現在も様々な企業と連携しているんですよね。
セドリック:ファッションブランドや製造業者だけでなく、リサイクル業者、繊維イノベーターなど、幅広く連携していますね。
ー連携を広げるうえで、ベルギー・ブリュッセルに拠点を置くことは有利に働いていますか?
セドリック:サーキュラリティは1社で完結できるものではなく、業界全体の協力が必要不可欠です。その点、イノベーション・政策立案・国際協力が融合するブリュッセルは、業界の根底から改革を目指す私たちにとって、理想的な環境だと考えています。
ーヨーロッパの環境規制の動向が、御社のビジネスに追い風をもたらしているとも聞いています。
セドリック:おっしゃる通りです。2024年7月にEUで発効された「ESPR(Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」はそのひとつで、EU内における製品の耐久性・修理可能性・リサイクル性の向上・廃棄の禁止などを義務付けるものです。それにより、サーキュラリティを意識する企業は間違いなく増えています。
セドリック:そしてそれは、私たちの「進化する製品のデザイン」というアプローチが正当化されるということになります。環境面での責務であると同時に、戦略的なビジネス上の強みでもある。「ESPR」は、高品質なリサイクル素材への需要を創出し、繊維廃棄物という課題を資産へと転換する強力な一手になると考えています。
ゴールドウインとともに、日本にも変革を起こしていきたい。
ー一方、日本の市場については、どのようにお考えですか?
セドリック:とても興味深く見ています。原材料を輸入に頼る島国にとって、国内の廃棄物から価値を最大化することは、資源の自立と経済の安定のために極めて重要だと思いますから。
ーセドリックさんの視点で、日本の課題と可能性を両面から教えてください。
セドリック:すでに効率的な廃棄物回収システムがある一方で、膨大な繊維廃棄物が焼却施設や埋め立て処分場の負担となっています。ただ、日本の消費者は洗練されており、自身の価値観と共鳴する革新的なソリューションを積極的に求める傾向がある。技術とクオリティを大切にする国民性を活かせば、日本はアジア太平洋地域における循環型経済のハブになれるはずです。
ーGoldwin Play Earth Fundからの出資について、経緯を聞かせてください。
セドリック:初めて投資チームとお会いしたのが2023年でした。そのときに、彼らは循環型社会を加速させるシステム的な解決策を探していて、その思いが私たちの価値観と強く一致したんです。そこから議論を重ねる中で、自然に出資の話へと発展していきました。実は、出資が完了する前からネットワークを紹介していただくなど、さまざまなサポートをいただいており、深く感謝しています。そして、多くの製品を世にリリースする「ゴールドウイン」にとってとっても「Smart Stitch™」の導入は、サプライチェーンの最適化とエコデザインへのコミットメントを同時に体現する、相互にとってメリットのある取り組みだと考えています。
ー最後に「Resortecs」が目指す未来を教えてください。
セドリック:「テキスタイルが廃棄物になるのではなく、進化するよう設計される世界」です。製品の「次の命」を考えてデザインすることは、廃棄物を劇的に減らすと同時に、新たな創造性と価値を生み出すと信じています。「ゴールドウイン」をはじめとしたパートナーの力も借りながら、そんな未来が少しでも早く訪れるよう、歩を進めたいと思っています。
Text_Keisuke Kimura
Edit_Shuhei Wakiyama(HOUYHNHNM / Rhino inc.