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TopInterviewGoldwin Play Earth Fund PORTFOLIO INTRODUCTION Vol.6 Ambercycle

Ambercycle社CEOシェイ・セティ

2025.08.07

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Goldwin Play Earth Fund PORTFOLIO INTRODUCTION

Vol.6Ambercycle

ファッションの世界においても、リサイクルは声高に叫ばれている。しかし、現状はというと、リサイクルされ新しい製品に生まれ変わるのは1%未満。繊維を分解することや、溶剤などを除去することが難しいため、この数字になっている。そこに登場したのが、スタートアップ「Ambercycle」。革新的な技術を用いて、繊維から繊維へのリサイクルを実現させている。いかにしてその技術が生まれ、どんな未来を描いているのか。同社CEOシェイ・セティ(以下、シェイ)に、話を聞いた。

カリフォルニア発のスタートアップ「Ambercycle」。

ーまずは、「Ambercycle」を立ち上げた経緯から聞かせてください。

シェイ:昔から「より美しい世界はどのようにしたら築けるか」ということを考えていたんです。要は、自立的で効率的、かつエレガントな世界ということ。そこから大規模な消費問題に注目するようになり、特に興味をもったのが「古着」の問題でした。

ー「古着」というのは、着古した服ということですね。

シェイ:そうです。私たちが着終わった大量の服を使って、新しい服を作れないのだろうかと考えたんです。そうすれば持続可能なだけでなく、まさに循環型な社会が実現できますよね。

ー新たな資源を使わずに、いまあるもので循環できるようになると。

シェイ:資源が埋立地や焼却炉で終わるべきではありません。もっと良い方法があるはずだと信じていましたから。

ーそこから、どのように起業するにいたったのでしょうか?

シェイ:私はカリフォルニア大学デイビス校で生化学と分子生物学を学んでいたんですが、ルームメイトだったモビー・アーメッドと、この問題を解決するために科学をどのように応用できるかを模索しはじめました。そしてアーメッドと一緒に、2015年に「Ambercycle」を立ち上げたんです。大学の研究室での実験から始まった「Ambercycle」ですが、いまはファッションにおける循環型社会のインフラを構築する企業へと成長しました。

右がCEOのシェイ・セティで、左がCTOのモビー・アーメッド。
右がCEOのシェイ・セティで、左がCTOのモビー・アーメッド。

「このシャツは使い終わったらどうなるんだろう?」から始まった挑戦。

ー「Ambercycle」の具体的な事業内容について教えてください。

シェイ:私たちの核となるイノベーションは「分子再生」と呼ばれるものです。その方法は、まず寿命を終えた繊維製品を集め、分子レベルで分解します。ここで繊維を種類ごとに分離し、添加物、染料、ラミネート、その他の汚染物質を取り除きます。分離した素材を、次は「cycora®」と呼ばれる新しい高品質の原料に精製し、再び繊維に生まれ変わらせるんです。

この方法であれば、廃棄物から品質の高い原料を再生し、かつ化石燃料への依存も減らすことができます。しかも「cycora®」は、再びリサイクルするのも簡単です。連続的な循環のために設計されたシステムでもあるんです。

ー繊維は繊維でも、「Ambercycle」が生み出す「cycora®」は再生ポリエステルですよね。

シェイ:そうですね。ポリエステルは、一度ほかの繊維と混紡されたり、染料や添加物が混ざったりしてしまうと、リサイクルが非常に難しくなります。私たちの分子再生プロセスがあれば、そのハードルもクリアできるんです。

使用済み衣類などの不要な繊維製品を仕分けする様子
仕分けされた繊維製品
製造工程で廃棄される端材などの不要な繊維製品を集め、種類ごとに仕分けしていく。その後、不純物を取り除き、「cycora®」へ再生させる。

ー他社のリサイクル方法とはどのように違うのでしょうか? 優れている点について教えてください。

シェイ:「cycora®」の製品は、European Center for Innovative Textiles(フランスにある持続可能な繊維産業のための研究機関)によって検証された結果、新品の製品の基準を満たしたものであることが認められていますし、新品に比べて、二酸化炭素の排出量も飛躍的に抑えることに成功しています。ただ、本当の価値は、完全な循環型エコシステムなんです。

ー循環型エコシステムとは、具体的にどういったものなのでしょうか?

シェイ:廃棄物の回収や、素材や製品をパートナーの元へ届けるためのシステムのことですね。その流通も、1から見直したんです。これにより、製品のクオリティを犠牲にすることなく、環境への影響も低減できました。また、誰かが「cycora®」の衣服を購入するとき、それは単なるショッピングではなく、より大きな循環システムの一部になるように設計されています。

ーなるほど。

シェイ:「この素材がどこから来たのか、どうデザインされたのか、寿命が尽きたらどうなるか。この透明性がとても重要であるし、私たちが「Ambercycle」を始めた大きな理由でもあるのです。私が大学生の頃、責任ある衣服の扱い方を求めていました。「このシャツは使い終わったらどうなるんだろう?」という疑問も常にありました。このシステムは、その疑問も解消してくれる側面も持っているんです。

繊維素材
繊維素材
使用済み衣類などの不要な繊維から生成された糸
廃棄物として焼却されたり埋め立てられたりするはずだった繊維がこんなに綺麗な糸になる。

ー素材および、新たなサプライチェーンを築く中で、苦労した点や印象的なエピソードがあれば教えてください。

シェイ:すでにあるものを改良するのではなく、まったくゼロから新しいモノを構築していく作業だったので、多くの困難がありました。

化学的性質を理解するために、現実の繊維廃棄物を扱いながら5年かけて実験を繰り返しました。繊維廃棄物のインプットとアウトプットの両方を、アパレルのサプライチェーンに統合するまでの道のりも試練の連続でした。

また、実際に衣服を作るのに十分な再生素材を作ろうとしていたときも、プロセスを安定させるのに何ヶ月もかかりました。ただ、不可能だったことが可能になったときの達成感は格別でしたね。これからも困難は続くと思いますが、チームで乗り越えていきたいと思っています。

ー「Ambercycle」の再生ポリエステルが普及すると、社会や地球環境にどのような影響を与えることができますか?

シェイ:環境面では、石油由来のポリエステルへの依存を大幅に減らすことができます。結果として二酸化炭素排出量を削減できて、新たな資源を消費する必要もなくなり、衣類を埋立地や焼却炉から遠ざけることができます。

それと、私たちのビジョンは、素材がクローズドで循環する世界。つまり、今日着たシャツが、明日着るシャツの原料となる世界です。そのサーキュラリティの中では、消費者に「責任と参加」という意識が芽生えるとも思っています。自分の衣服に第二の人生があることを知り、そのプロセスで役割を果たすことができれば、システム全体が変わり始めるのです。なので、私たちがやろうとしていることは、物質的な変化だけでなく、システム全体に変化をもたらすことなんです。

ラボでの実験の様子
ラボでの実験の様子
ラボでの一コマ。さまざまな実験が行われている。

ー現状、抱えている課題はありますか?

シェイ:私たちが最も力を入れているのは、規模を拡大することです。つまり、大規模な施設の建設からサプライチェーンの調整、政策や規制まで、あらゆることをナビゲートするということ。私たちは単に素材を生産しているのではなく、素材が世界を移動するためのまったく新しいシステムを構築しようとしています。そのためには時間と資本、そしてバリューチェーン全体の協力が必要なんです。

もうひとつの課題は、業界内と消費者の両方により理解を深めてもらうよう呼びかけること。サーキュラリティは多くの人にとってまだ新しい概念であり、発想の転換が必要です。私たちは、ブランド、パートナー、エンドユーザーに、「cycora®」とはどういったもので、なぜ重要なのかを、もっと広く認知してもらう必要があると考えています。

世界のクローゼットにある衣服が、循環型の方法で作られる未来を目指す。

ーこれまで、日本や日本企業との接点はあったのでしょうか?

シェイ:いくつかの日本企業と仕事をする機会がありました。彼らとのコラボレーションのおかげで、「cycora®」の品質と汎用性をアピールすることができたんです。

日本は、商業的にも哲学的にも、私たちにとって重要な地域です。細部や品質へのこだわり、職人技などは、私たちの素材革新への取り組み方と密接に一致しています。「cycora®」の可能性を最大限に発揮してくれる思想と技術が、日本にはあるんです。

「cycora®」の可能性は一緒に取り組む企業がいてこそ花開く。

ー現在、Goldwin Play Earth Fundは「Ambercycle」に出資していますが、出会いの経緯を教えてください。

シェイ:ゴールドウインのことは何年も前から知っていましたし、品質、デザイン、持続可能性に対する彼らの取り組みは、本当に素晴らしいと思っていました。そして、あるとき親しい人から紹介してもらったのですが、すべてがピタリと一致したんです。私たちが「インパクト」と「意図性」という共通言語を有していることは明らかでした。

ー投資が決まるまでの経緯についてもお聞かせください。

シェイ:まず、私たちのエコシステムに参加してもらうパートナーについては慎重を期しています。価値観の一致と、永続的な変化を生み出すことへのコミットメントが必要不可欠です。深いパートナーシップこそが、私たちを取り巻く世界に真の変革をもたらすと信じています。そのなかで、ゴールドウインとは強い共鳴を感じたんです。

製品やイノベーションに対するアプローチだけでなく、私たちが築こうとしているものの根底にある哲学においても、明確な一致がありました。彼らのビジョンを理解した後、これは単なる投資ではなく、真のコラボレーションの始まりであると思ったんです。これからの未来を一緒に築けることに感謝しています。

「Ambercycle」のメンバー。

ーGoldwin Play Earth Fundと「Ambercycle」が協業することで、ゴールドウインのモノづくりはどんな進化を遂げていくと思いますか?

シェイ:ゴールドウインのデザインと性能に関する専門知識と、当社の分子再生技術を組み合わせることで、私たちはエコシステムに生命を吹き込み、まったく新しいレベルの循環型素材と製品を一緒に創造することができると思います。製造プロセス全体を再構築することもできると思っています。

最終的には、このコラボレーションがテキスタイルの未来を再定義することになると信じています。それは持続可能性の観点からだけでなく、消費者がどのように製品を体験するかという点においてもです。ゴールドウインのユーザーが、身につけるものとより深くつながり、新たな冒険を楽しみ、アイテムとより長く、有意義な関係を築くための扉を開けたらと思っています。

ー最後に、「Ambercycle」が目指す未来について教えてください。

シェイ:世界のクローゼットにあるすべての衣服が、循環型の方法で作られる世界を目指しています。つまり、システムから廃棄物を完全になくすために必要なインフラ、素材、考え方を構築することです。そんな未来が築けたら、衣服には終わりがなく、継続的なライフサイクルになっていきますよね。

私たちは創業当初から、化学の分野だけでなく、素材の調達から再生、そして経済への還元に至るまで、可能性の限界を押し広げることに力を注いできました。そして、私たちはこれからも突き進み続けます。この業界を真に変革するためには、環境への影響、製品の卓越性、そして循環性を中心に据えて、一から業界を再設計する必要があるんです。

Text_Keisuke Kimura

Edit_Shuhei Wakiyama(HOUYHNHNM / Rhino inc.)