
Goldwin Play Earth Fund PORTFOLIO INTRODUCTION
Vol.5Colorifix
微生物の力で、染色業界に革命を起こす。
ー 共同創業者である2人の出会いから伺いたいです。
ジム:私たちの出会いは2012年のことでした。私がオーを研究室に雇い入れ、水質用のバイオセンサーの研究をしてもらったのがきっかけです。当時の私は、2009年にiGEM(合成生物学の世界大会)で優勝したケンブリッジ大学のチームへ助言を与えるなど、合成生物学の分野ではある程度の評価をいただいていました。また、ケンブリッジ大学病理学科で生物学的安全性の管理も担当していたんです。
オー:博士研究員としてジムの研究室に加わった私は、ケンブリッジ大学とエジンバラ大学での過去の研究経験を活かして、南アジアで使用するバイオセンサーの開発を手伝いました。その際、大規模な水質汚染の影響を受けている現地の利害関係者を訪問したのですが、繊維製品が地球環境に与える深刻な影響と、染色プロセスがいかに多くの汚染を引き起こしているかを目の当たりにしたんです。そこで私たちは、バクテリアを使って素材に色をつけるという新しいアプローチを試してみようと考え、それが「Colorifix」の始まりでした。






バクテリアを用いてさまざまな色合いを作っている。
ー 具体的な事業内容を教えてください。
オー:「Colorifix」を立ち上げたのは、繊維のウェット加工分野に本物のバイオテクノロジーをもたらすためでした。そこで私たちは、人工のバクテリアを使って色を作り、布地に付着させ、定着させる方法をエンド・ツー・エンドで開発したんです。これらのバクテリアは、植物、昆虫、哺乳類、あるいはその他の微細な生物など、自然界のあらゆる場所で見られるのと同じ色を作り出します。必要な原料は、砂糖、窒素、塩のみです。私たちはこれを『生命に優しい』化学と呼んでいます。
ジム:私たちは、染料を製造する際の石油化学製品による影響をすべて取り除いているだけでなく、実際に生地を染める工程でも多くの節約を行っています。プロセスのあらゆる段階で水、エネルギー、排出物を節約し、競争力のある価格と最小限の環境負荷で、合成染料に匹敵する性能を提供できることを誇りに思っています。
ー 「Colorifix」の会社の規模はどの程度なのでしょうか?
ジム:3カ国に約85名の従業員を擁しています。英国のノリッチにある本社では、新色の開発、テスト、検証といったほとんどの研究開発を行っています。ポルトガルではプロダクトチームが、顧客の染色工場が当社の生物学的プロセスに切り替えるのを支援しています。
オー:インドはまだ小さなチームですが、早ければ今年中にペースト状の染料と染液を、インド市場に供給できるよう準備を進めています。どの工場も、目的意識とエネルギーにあふれ、さまざまなことが同時に起こっています。また、私たちの焦点は、バイオロジーを使って染める生地の量を増やし、規模を拡大すること。いま、その努力は着実に実を結び始めていると思います。

ー これまでに「Colorifix」の染料を取り入れたり、コラボレーションを行ったりしたブランドはありますか?
ジム:「H&M」は、2021年に当社の技術で染めたTシャツを発表した最初のブランドでした。サステナブルなブランドとして知られる「Pangaia」とも、カプセル・コレクションを発表しましたね。そのときは、発売してから3時間以内に完売したんです。
オー:最近であれば、ロンドンのメーカー「Vollebak」とも協業し、メンズのTシャツ、セーター、パーカー、ショートパンツなどをリリースしました。
極限の環境から生まれる独特な色彩。
ー 「Colorifix」は独特な色合いが魅力的です。色の選定や染料の開発は、どのように行われているのでしょうか?
オー:どの顔料にも驚くべき由来があって、例えばピンクのブラッシング・ローズは、間欠泉の中やその周辺などの極限状態で繁殖する古代のバクテリアによって生成されたものです。ブルーのオーシャニック・タイドは、ミネラル豊富な水に生息するバクテリアから発見されたもの。
ジム:自然界では同じ色素を様々な場所で作ることができますし、必ずしも元のソースからDNAコードを借りられるとは限りません。目的の色素を特定したら、その色素を最も効率よく作る生物を探し、そのDNAコードをテンプレートとして色を作り出しています。

ー バクテリアから染料へ、そして実際に染めるまでのプロセスを教えて下さい。
ジム:まず、植物、動物、昆虫、バクテリアなどのなかから、興味深い色を作り出す生物を特定します。そこから遺伝子を特定し、DNAを合成し、安全なバクテリア(細菌や酵母など)に挿入する。それが小さな生物工場として働き、目的の色を作り出します。
オー:バクテリアは発酵槽の中で培養されているんですが、糖類、ペプチド、塩類を豊富に含む有害でない原料によって成長します。これらの原料は、バクテリアが増殖し、色素を生成するのに必要な栄養素を供給しているんです。
ジム:発酵プロセスが完了すると、発酵槽内のバクテリアとその栄養源となる培養液、水を生地とともに一般的な染色機に送り込みます。そこでバクテリアが素材に色素を付着させ、希望の色を実現するんです。このプロセスでは有害な化学薬品は不要。石油の代わりに再生可能な原料を利用するため、従来の染色方法に比べ、圧倒的に環境負荷が少なくなります。


電力使用量53%、CO2排出量31%、水の消費量77%を削減。
ー バクテリアを色素源として使用する技術を開発するまでに、どれくらいの期間が必要だったのでしょう? また、直面した課題などについてもお聞かせください。
ジム:原理を証明し、認知度を高め、資金を調達するまでには3年しかかかりませんでした。でも、そこから市場に広げるのには10年近くの時間を要しましたね。市場をリードし、操作が簡単で、染料庫で稼働させるのに効率的なハードウェアを作ることは、単純な挑戦ではなかったです。

ー アパレル業界において、染色時の水の使用量と排水量は深刻な問題となっています。従来の合成染料と比べ、「Colorifix」の染料を使用することで、どのくらい資源の使用量を削減できるのでしょうか?
オー:コットンとポリエステルを含んだニットを用いた最新の分析では、染色工程で使用電力を少なくとも53%、CO2排出量は31%、水の消費量は77%削減されました。今後は、それ以上の結果を出したいと考えています。そのために、私たちは工程から生じる環境への影響全体を測定し、あらゆる段階で監視と改善を行っているんです。
ー 現在取り組んでいることと、次に取り組みたいことがあれば教えてください。
ジム:まずは、顔料の収率との最適化。私たちは、特にポリエステルの三色顔料について、顔料の収率と力価(生物学における濃度の測定法)の向上に取り組んでいます。これにより、生産コストの削減が可能になるんです。また、カラーミキシングに使用できる3つの個別製品(イエロー、ブルー、ピンク)を開発しました。これにより、顧客の創作できる色の範囲が広がります。
オー:ほかにも各ブランドからの注文に対応するため、顧客拠点での規模拡大も継続していますし、もっと多くの人に知ってもらうために、ブランド、デザイナー、イノベーターに「Colorifix」で染めた生地を提供しコレクションを作る「Colorifix Studio」も立ち上げました。
ジム:今後数年のうちに、私たちの廃棄物を農業分野で利用し、繊維の染色公害を良質の肥料に変えることも目標としています。

ー 環境問題やサステナブル意識の重要性について、世界的に叫ばれていますが、日本ではまだ言葉だけが先行している印象があります。その点は、どうお考えですか?
ジム:日本は、個人レベルで言うなら、環境保護に関して世界をリードしていると思っています。公共のゴミ箱がまったくないにもかかわらず、どのストリートも清潔であることからも明らかです。
オー:日本特有の家庭ゴミを分別するということも、人間がどれだけ地球にダメージを与えているかという意識を高めていますよね。ほかにもゴミの清掃から森林の植林に至るまで、そうした活動が環境への意識を高めるだけでなく、強固な地域社会を築いていると感じています。
世界的ブランドとの協業で実現する社会へのインパクト。
ー これまで、日本との接点はあったのでしょうか?
ジム:私は日本人の血を引いていて、苗字は味岡(あじおか)です。味岡家は何代も天皇の護衛を務めてきたので、私は今でも先祖にならって、天皇の考えや想いを大切にしています。だからこそ、日本でより直接的な仕事をすることが嬉しいんです。
ー GOLDWIN PLAY EARTH FUNDの投資が決まるまでの経緯についてお聞かせください。
オー:2023年のことでした。英国にゴールドウインのチームがやってきて、そこで多くの話をし、私たちの思いと彼らのミッションが合致していることを知ったんです。そこから、新たなパートナーや投資家を通じて、次のフェーズで事業を成長させる方法について、有益な提案をしてくれました。
ー 「Colorifix」はゴールドウインとのコラボレーションを通じて、何を実現したいと考えているのでしょうか? また、このコラボレーションが社会にどのようなプラスの影響を与えるとお考えですか?
ジム:「Colorifix」が社会的インパクトを最大化するためには、私たちの技術を世界中の消費者に届けることができる、確立された国際的ブランドとパートナーシップを築く必要があります。ゴールドウインはその点でも完璧だと考えていますし、現在は英国にもショップを構え、より存在感を高めようとしていることに興奮しています。今後は、より親密な関係を築き、世界に発信していけたら嬉しいですね。

ー 今後のビジョンについても聞かせてください。
ジム:私たちは今後も、生物学的製品の数と種類を増やし、可能な限り石油の使用や環境汚染を減らしていきたいと考えています。それは繊維の話だけでなく、紙、プラスチック、建築資材、食品や化粧品までもが含まれています。時間は必要ですが、これらの素材すべてに「Colorifix」の技術が転用できるようにしていきたいんです。
Text_Keisuke Kimura
Edit_Shuhei Wakiyama(HOUYHNHNM / Rhino inc.)