TOPINTERVIEWGOLDWIN PLAY EARTH FUND PORTFOLIO INTRODUCTION Vol.2 Synflux 株式会社

2023.04.26

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GOLDWIN PLAY EARTH FUND PORTFOLIO INTRODUCTION

Vol.2Synflux 株式会社

環境危機という人類が抱える問題に対して、我々ができることはなんだろう? GOLDWIN PLAY EARTH FUNDが出資するSynfluxは、デジタル技術を駆使することで、旧態然のシステムが残るファッション業界において、環境負荷を少なくできるイノベーションをもたらそうとしています。そのメインサービスであり、世界的アワードも受賞したシステム「Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)」とは何か? そして、ファッションは環境問題にどうアプローチできるのか…、CEOを務める川崎和也さんの元を訪ねました。

環境問題にファッション分野から貢献する。

── まずはSynfluxの紹介からお願いします。

川崎:Synfluxは、“FASHION FOR THE PLANET(惑星のためのファッション)”というミッションを掲げて活動しているデザインスタートアップです。環境危機が叫ばれる昨今、我々が得意とするデジタル技術の開発や応用によって、複雑な環境問題に対して最適化した新しいファッションデザインを提案しています。

── その中のメインサービスとして「Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)」がありますよね。

川崎:「Algorithmic Couture」は人工知能と3D技術を掛け合わせたもので、洋服の製造時における廃棄を最小限に抑えることができるシステムです。具体的にできることとして、「極小廃棄のデザイン提案」と「型紙の自動生成と最適化」の2つが挙げられます。

第一に、僕らのシステムに洋服の3Dデータを入力すると、ミカンの皮を剥くように線が入っていき、その線に基づいて型紙が展開され、ゴミが出ないように計算されたデザインを提案できます。次に、3次元のデータから汎用的な型紙のデータを自動生成し、生地に敷き詰めて裁断できる情報を用意することができます。

── なるほど。それは、今まで人が引いていたパターンをAIが代わりとして線を引く… つまりコンピューターが服をデザインするところまで最終的には行き着くんですか?

川崎:デザイナーやパタンナーの創作をサポートするというスタンスの方が近いです。パターンメーキングには歴史の蓄積があり、人の手が入るというプロセスがすごく大切です。コンピューターがデザインをゼロから生み出すことにも挑戦したいと思っていますが、まずは廃棄量を減らすためにパタンナーやデザイナーを支援するという側面が大きいです。

── そもそも、川崎さんの環境に対する意識はどこから来たんですか?

川崎:僕は新潟県の地方出身で、上京する前はファッションやデザインに携わるなんて全く想像もしていない…、言ってしまうと、何も考えず東京に出てきた人間なんです(笑)。大学進学を機に上京したのが、ちょうど2011年。東日本大震災の年で入学式もなく、色々な活動がストップしていました。

そんな中で被災地に赴く機会があり、自然の脅威によって人間の衣食住がこれほどまでに簡単にもろく崩れ去ってしまうのかということに衝撃を受けたのです。そこで自然の脅威を前提として、我々人間の衣食住をどうやってこれから維持、再構築していくべきか考えなければいけないなと感じました。

── 震災を機に、日々の生活に対する考え方に変化が起きたと。

川崎:そこで通っていた大学を辞めて、デザインを学ぼうと新しく大学に入り直してファッションを勉強し始めました。当時はアパレル産業の中でも、環境の持続可能性について議論があったタイミング。 それまでの買って売って捨てるという当たり前の考え方から少しずつシフトしている時期でした。そこで僕はどういう新しいファッションやデザインを提案できるかと考えて、通っていた大学や大学院のデジタル分野に強い仲間たちとチームを組み、一緒に会社を立ち上げました。

── 環境問題は、あらゆる分野が無関係ではいられない問題ですが、どうしてファッションだったんでしょう?

川崎:ファッションが持つ創造性に強く惹かれました。表層的だと思われてしまうような“かっこよさ”や”美しさ”などの「人間の欲望」に関わる事柄から、日常を快適にする機能性についてまで、扱う対象はとても多様です。例えば、環境問題に挑戦するときも、より面白く、 よりかっこよく、より美しく、人間社会についてより深く洞察した上で問題にアプローチできるんじゃないかと思っているんです。

── 環境問題に対して真面目に、地道に、というのも大切ですが、プロセスは色々ありますからね。

川崎:ファッションの創造性やファッションデザイナーの発想が、環境問題においても重要になってきています。それに、人々の欲望や消費に強く関係するファッションだからこそ、これまでにない観点から環境問題にアプローチできると思うんです。

地道に数字を積み上げていくことと同時に、人々はなぜこれが面白いと思うのかについてを欲望の観点から、なぜこれを買ってしまうのかについてを消費の観点から、どう伝えたら興味を持ってもらえるのかについてを社会の観点から、ファッションを通して考えることが大切だと思っているんです。

デジタル化することのハードルともたらす未来。

── Synfluxの今後についてお伺いさせてください。

川崎:僕らの活動の基礎にある技術である「Algorithmic Couture」を踏まえてお話しすると、事業の中心に据えていきたいことのひとつは、“ファッションデザインの包括的なデジタル化”の達成です。Synfluxは、身体や衣服のデジタルデータを扱うことを得意としています。現状はファッションにおける環境負荷を下げるため、服の廃棄を0にするシステムづくりに注力しています。その衣服と身体のデータを使えば、別の用途…、例えば、機能性をより向上させた衣服のパターンを作ることだってできます。

また、メタバースなどのバーチャル空間で活動するアバターをつくるときに、ユーザーの身体や洋服のデータが必要になるのですが、そこでも我々のテクノロジーを設計の支援に活用できるのかなと。

── デジタル化することのメリットはなんでしょうか?

川崎:デジタルの強みというのは、定量的であることです。例えば環境負荷を低くできたという成果が出た場合、それがどれくらいなのか、あるいは何がその因子だったのかというデータを追跡し透明化することができます。最近ではトレーサビリティと言われていますよね。これからの時代、我々は情報環境や自然環境といった複雑な環境とともにデザインを構築していかねばなりません。そういった時代の事業として、“ファッションデザインの包括的なデジタル化”を進めていきたいですね。

── では、実際に「Algorithmic Couture」などのサービスをファッション業界にインストールするためには、どんなことがハードルになりますか?

川崎:ファッションデザインにおける基本的な手法は、およそ200年前にフランスで確立されてからほとんど変わっていないと言われています。日本で言えば、明治時代に洋服の文化が輸入されて、当時の作り方がアップデートされつつも、現代まで続いています。それくらいの長い歴史があるものなので、いざファッションデザインを変革しようとすると、すごく時間がかかったり、大きな発想の転換が必要になると日々感じています。

我々としては、デジタルという領域を中心に、多様な産業従事者の皆さんと一緒に進めていきたいので、職人技やクラフトなどを大事に思う方々とも積極的に議論をしていきたいですね。時間がかかるのであればしっかりと時間をかけて、丁寧に誠実に話しながら、挑戦していきたいと考えています。

── 例えば説得材料の一つとして、デジタル化によるコスト削減も挙げられますよね。

川崎:ゴミが出てしまうのは、端的に言えば「もったいない」とも言えます。生地の使用量がちゃんと最適化されて無駄な生地の量が減らせたら、環境コストだけでなく、経済コストも抑えることができます。現在、環境危機に対する新しい解決策がたくさん出ているものの、開発や導入のコストが膨れてしまうことが多い。僕自身としては、それでも積極的に使っていくことが必要だとは思いますが、一方で高い値段を払える人しか環境配慮型のプロダクトを買えないのは、本末転倒になってしまうと感じているのです。

ベンチャー企業は開発をした後は、いずれコストを下げていくことがミッションになるものです。我々の技術は環境と経済の両面でコストを抑える支援ができるという点に注目していただけると嬉しいと思っています。

── 環境保護に関して、客観的な話では、例えば一緒に組むメーカーの事業規模が大きければ大きいほど、その波及効果も大きくなると思うのですが、いかがですか?

川崎:環境危機の時代では、たくさんモノをつくるということは大いなる責任を伴うと言わざるを得ません。その点から、現在、そして未来に対しての責任を共有できるパートナーの皆さんと連携することによって、環境的、経済的なインパクトをより大きくしていきたいです。そのためには可能な限り多くの皆さんと、環境危機に対する問題意識やビジョンを共有することが重要だと思いますが、我々もまだ道半ばです。最近思うのは、アライアンス、つまり同盟というものが、重要なんじゃないかなと…。

── アライアンスというのは?

川崎:ブランドや企業は、当然自分たちの利益を重視します。もちろん企業としての自衛行動なので、当たり前ではあります。でも、そこに環境危機などの共通のビジョンを媒介にすると、ある種の同盟関係を組めるのではないかと思っているんです。 Synfluxは、そのような同盟関係を構築する一助となりたいと考えています。デジタル技術を介して、一緒に環境危機について考えながら、ものづくりをしていきましょうと呼びかけていきたいです。

無理難題であろうと探求を止めないこと。

── GOLDWIN PLAY EARTH FUNDから出資を受けることが、2022年末に決まりました。その経緯は?

川崎:2年前にGOLDWINのブランドの一つであるニュートラルワークス事業部長の大坪岳人さんと一緒のイベントに登壇したことが最初のきっかけです。そこでSynfluxの事業のお話をさせてもらったら、「これは面白いね」と言っていただいて。そこからGOLDWIN社とのコラボレーションプロジェクト・SYN-GRID(シン・グリッド)がスタートしました。そこから1年半かけて開発をし、ようやく今回ローンチするに至りました。

── SYN-GRIDの結実として、THE NORTH FACEとNEUTRALWORKS.からそれぞれプロダクトがリリースされました。

昨年11月にSYN-GRIDからリリースされたTHE NORTH FACEのジャケット
NEUTRALWORKS.のフリース

川崎:どちらも生地の廃棄を大幅に抑えたプロダクトで、THE NORTH FACEのジャケットはすでに人気のあった製品のデザインをベースにしています。かたやNEUTRALWORKS.では、新しいブランドという特徴を活かして、挑戦的なパターンのデザインを目指したフリースのセットアップです。

── 出資を受ける前から、SYN-GRIDのプロジェクトはスタートしていたんですね。

川崎:「SYN-GRIDがローンチするまでの期間というのは、製品開発をご一緒するだけではなく、サステナビリティのビジョンなど、抽象的なレベルで考えを共有するプロセスだったのかなと思っています。その中で大坪さんからGOLDWIN PLAY EARTH FUNDをご紹介いただき、協議を重ねる中で、出資していただくことになりました。

── GOLDWIN PLAY EARTH FUNDはどんなファンドだと捉えていますか?

川崎:先日、GOLDWINの渡辺貴生社長のプレゼンテーションを拝聴したのですが、強調されていたのは、循環が重要だということ。Synfluxも循環という概念がこれからのファッションやデザインにますます大切になるという思いを強く持っているので、とても共感しました。PLAY EARTHという言葉もこうした思想を象徴しているのかなと理解しています。

遊びながら考えて作ること、それが地球への貢献に繋がるということ。これはアウトドア、スポーツ、ファッションという領域だからこそできると感じています。これも、GOLDWIN PLAY EARTH FUNDに共感することの一つです。あともう一つ、“NEVER STOP EXPLORING”、つまり、探求を止めるなというTHE NORTH FACEの有名なタグラインがあります。これは僕らでいうところのベンチャースピリットだなと。環境問題について深く考えていくと、複雑すぎて途中で諦めたくなることもありますが(笑)、それでもいかに面白く問題を解決できるのかを考え、その探求を止めないということ。このタグラインの意味を紐解いてみると、協業する意義を感じました。

── GOLDWIN PLAY EARTH FUNDと組むことで、どんな活動を目指しますか?

川崎:Synfluxの環境危機に対する考え方やこれまでの実績を背景として、出資を頂いたと理解しています。まだ我々はいちスタートアップ企業ですが、GOLDWIN PLAY EARTH FUNDのサポートをいただくことで、これから先の循環型ファッションを創造し、大きく成長させていけたらと思います。

PROFILE

川崎和也(Synflux 株式会社 CEO)

1991年、新潟県生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科でデザインの修士号を修めた後、H&Mファウンデーション・グローバルチェンジアワード特別賞受賞を契機に現CDOの佐野虎太郎とSynfluxを共同創業。『サステナブル・ファッション』(学芸出版社、 2022)などの著書もある。

Photo_Shohei Kabe

Movie_Kohei Yamaji

Text_Shinri Kobayashi

Edit_Hideki Shibayama(HOUYHNHNM)

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